Collage

歴史の1ページ

ニッサン・インゲル/歴史の1ページ

1975年アメリカから再びパリの地へ戻ったニッサン・インゲルは、アメリカで掴みかけた新たな表現手段を模索していた。 そんなある日、パリのノミの市で出逢った手書きの古い楽譜の音符が、自分が描いてきた飾り文字に似ていることに気付く。彼はその美しくエレガントな楽譜を実際に紙の上に置き、重ね合わせてコラージュの要素として用いてみた。一枚の楽譜との出会い、そしてコラージュするという偶然が彼の中で運命が必然になった瞬間である。まさにこの瞬間こそがニッサン・インゲル特有の音楽的感性によるコラージュ作品が響き始めたイントロダクションとなる。


1980年代後半になると、作品はさらに洗練されていった。楽譜の切れ端、手紙やカードの断片、またある時は新聞や小説の一編、ちぎれた壁紙やレース、ガラスの破片や薬品、化学物質までも、それぞれの物体に刻まれた意味や時間を包み込み、メッセージを奏でる旋律の一音としてキャンバスに敷き詰められてゆく。そこにアクリル絵の具や油絵の具、さらにモチーフによっては金属の顔料なども用いて、時に力強く、時に優しく、めくるめくように幾重奏にも美しい色彩のハーモニーが構築されていく。完成した作品の厚さはキャンバス表面から数センチ以上にも盛り上がり、大人2人でやっと持ち上がる重さの作品も制作している。


コラージュという技法

ニッサン・インゲルが得意とする「コラージュ」とは、絵の具以外の布の切れ端や紙切れ、植物、針金、ボタン、動物の骨など、特に意図を持たない素材を組み合わせて画面に貼り付け、特別な効果を作品に与える技法のことである。
ブラックやピカソなど、キュビズムの先駆者たちによって導入され、その後多くの芸術家たちがさまざまな技法を創造し、発展させてきた。


彼の場合も、古い手紙や楽譜、古い絵、モナ・リザのような肖像画のコピーや写真、建築や自然の写真、木片などを素材にして、油絵の具やグワッシュ(水彩の一種)、木炭画などの画材と組み合わせることで、独自世界を作りだした。


「コラージュ」はフランス語で「糊付け」という意味である。彼は、紙などを前日にあらかじめ水に浸しておき、次の日にそれに糊をつけてキャンバスに貼り付けるという手法を取った。そして作品が完成するまで何度も同じ作業を繰り返し、独特の重厚な味わいも持つ作品に仕上げていたのである。


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