PROCESS

ヨハン・ペラトーネル画伯に聞く

私がこれほどまで「大都市」に魅せられる理由


大都市は、私にさまざまなインスピレーションを与えてくれます。



―ペラトーネル画伯の作品は、常に「大都市」をテーマにしたものですね。

絵を描き始めたのは6歳の頃ですが、その当時から私の関心は常に都会の様子を描く事でした。
個々の街にはそれぞれに異なる要素があり、そのひとつひとつから私は多くのインスピレーションを得ます。 その街を訪れたことのない人にも、作品を通じて街の息づかいを感じとってもらうことこそアーティストとしての私の役割だと思っています。


―レイヤーを用いた技法を用いるのはなぜですか。

リアリティをイメージかするためです。映画でも様々な特殊効果を使いますよね。それと同じで、その街に触れて得られた感覚を、どうすればよりリアルに伝えていけるかを追求していくうちに、この手法にたどり着いたのです。


―ニューヨークのように、同じ街を昼と夜と両方の視点から作品にした街もありますね。

「睡蓮」の連作で知られる画家のモネは、時間や季節と共に変化する光と色を追求し続けた事で知られています。私も同じで、たとえば日中のニューヨークはまさにポップアートの世界。たくさんの色彩に溢れています。しかし日が暮れると色彩は落ち着き、五番街などの街路が黄色く輝く光の線として際立ってくる……。そんな2つの異なる表情を描き分けてみたかったのです。


―制作にあたっては、まず鉛筆デッサンに色をつけ、それをスキャナーでパソコンに取り込みさらに彩色をほどこしたものをカットして、層に貼りこんでいくという緻密で根気のいる作業を繰り返されます。

はい、制作にはとても多くの時間がかかります。パソコンに取り込んだ下絵に、さらに自分の求める色を付け、レイヤー用のシートとして出力してから数百時間以上をかけてひとつの作品に仕上げます。パソコンを使うといっても、自分のほしい色を調整するために用いるだけで、そこにかける時間は全体のごくわずか。あとはひたすら手作業に没頭するので、私の作品はコンピューターグラフィックのアプローチとはまったく異なるものです。
これまでいちばん時間がかかったのは香港ですね。ご存知のように、さまざまな個性を持った高層ビルが立ち並ぶ街ですし、ビルによっては8層ものレイヤーを重ねて表現しているんですよ。


―それだけの集中力を保つのは大変なことではありませんか?

私は、ひとつのことに長時間集中できるタイプで、ドバイのタワーを描いたときも、ものすごくたくさんのラインストーンをちりばめたのでとても疲れはしましたが、良い作品を作るためのプロセスなので苦にはなりませんでした。
普段は朝8時ごろにスタジオに入り、夜の10時か11時ごろまで仕事に向かいます。アイディアが煮詰まったときは、コーヒーを飲んだり軽く睡眠をとったりすると、また新しいインスピレーションが湧いてくるから面白いものです。気が向けばよく散歩やショッピングにも出ています。
そうしてさまざまな建物を見たり、作品の素材になりそうな小物を探したりすることも、アーティストにとってはとても重要な時間です。
そういえば、日本の大きな雑貨店で人工芝のような素材でできたスマホケースを見つけたのですが、そんな面白い素材と出会うと「この作品に使いたい!」といつも思ってしまうんです。画家が街で素敵な女性を見かけたとき「ぜひ絵のモデルになってほしい!」と思うのと似ています(笑)


―最後に、ペラトーネル画伯の作品に接する日本の皆さんへメッセージをお願いします。

日本を訪れ、日本の街を肌で感じる機会をいただけて本当に感謝しています。日本のことは、多くの書物や人からの情報である程度知ってはいましたが、実際に訪れてみてこそ想像力もわいてきます。東京の街から私は実にたくさんのインスピレーションを受け取りました。日本の皆さんに私の作品を末永く気に入っていただけるよう、良い仕事をしていきたいと思っています。みなさんからの感想を楽しみにしています。



ペラトーネル画伯に、作品制作の過程を見せていただきました。